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手すき昆布 技術守る 職人養成所を開設 / 大阪

上方食文化の一つとして欠かせない昆布。「バッテラ寿司(ずし)」などにも使われるが、手作業で薄く昆布を削る「手すき」の技術は、消滅の危機を迎えているという。堺市堺区市之町東5丁目の郷田商店(郷田光伸社長)は、今年3月に職人養成所を開設。伝統技術を守り、継続させたいとの熱い思いを背に、5人の若手職人たちが半年間の修業に励んでいる。

おぼろ昆布などを作るのに、薄く昆布を削る手すきの技術は、江戸時代に北前船によって北海道から運ばれた昆布と、堺の刃物技術との出合いで生まれた。

大正から昭和初期に全盛を迎えた堺の手すき昆布は、戦後、福井県敦賀市などに移り、かつて150軒ほどあった加工業者も数件に激減。職人の高齢化も進み、このままでは技術が消滅してしまう危機にある。

郷田社長(44)は「敦賀市でも職人の高齢化が進んでいる。自社加工を増やさないと商品の仕入れもできなくなる。需要は減っているが、供給も追いつかない。バッテラなど伝統の食文化は、残していかなあかん」と話し、職人養成所の開設を決断した。

大阪産業振興機構の「おおさか地域創造ファンド」助成事業に採択されたのを受け、いずれも地元の20~40代の5人(男性4人、女性1人)の若手職人を育てることになった。

同社のおぼろ昆布の原料は、北海道南産の白口浜昆布。酢に浸し、細かなごみなどを取り除いてから、包丁の刃先にアキタと呼ばれる曲げを加えた特殊な包丁で両面を削る。手作業のため、力の入れ加減や微妙な感覚が要求される繊細な作業だ。

修業を続ける5人のうち、山口祐樹さん(28)は、伝統産業に興味があり自分でもやってみたいと飛び込んだ。「自分なりに一生懸命できたが、もう少しやれたかなとも思う。手すきに使う特殊な包丁は、感覚の世界なので難しい」と振り返る。

中井一貴さん(27)は「分からないことだらけだった。気温や湿度で昆布の状態も変化するので奥深い。このまま職人になってずっと削っていきたい」と意欲を語る。竹内直子さん(47)は、型に合わせてバッテラ用の白板昆布を切る作業を続ける。「これまで楽しかった」と、仲間たちと一緒に奮闘した経験に満足感を漂わせた。

間もなく半年間の修業を終える5人に、郷田社長は「まずは一人前の職人なって、さらに次の世代に技術を教えてほしい。何とかスムーズに引き継いでいけるようなシステムをつくりたい」と将来像を描く。上方食文化の伝統と技術を次代につなげる取り組みは、大きな一歩を踏み出している。

http://www.nnn.co.jp/dainichi/news/150822/20150822044.html
参照元記事 / 大阪日日新聞

養成所で修業に取り組む若手職人たち。ベテラン社員の指導で技術を受け継ぐ=堺市の郷田商店 / 大阪日日新聞

養成所で修業に取り組む若手職人たち。ベテラン社員の指導で技術を受け継ぐ=堺市の郷田商店 / 大阪日日新聞

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