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「うどん」じゃ駄目ですか? 年越しが「そば」な理由

「そば」派の方も、「うどん」派の方も、世は年末。年の瀬である。いくら「うどん」愛が強くても、大晦日は、「そば」を食べるという人が多いのでは? それに「年越しうどん」という言葉は聞かないが、「年越しそば」という言葉は辞書にもちゃんと載っている。

では、なぜ年越しに「うどん」ではいけないのだろう? 『日本人の「食」、その知恵としきたり』(永山久夫/海竜社)で、“なぜ年越しは「うどん」ではなく「そば」なのか”を調べてみた。

そもそも、「年越しそば」の習慣が始まったのは、江戸時代中頃のこと。年越しに食べるものが「そば」だった理由は、「縁起担ぎ」にある。この縁起には諸説あるものの、有力なのは次の2つだ。

【1】“細く長く”という形体にあやかり、長寿を願う。
【2】“切れやすい”という食感にあやかり、災厄を断ち切ることを願う。
なるほどと納得しつつも、【1】の“細く長く”は「うどん」にも当てはまるので、長寿を願うだけなら「うどん」でも構わないのではないか? 【2】の“切れやすい”だって、「うどん」の中にはコシを重視しない“切れやすい”ものもあるし…などとも言いたくなる。

ところが本書によれば、【2】の“切れやすさ”は原料について考えると、確実に「そば」にその軍配は上がるというのだ。

「そば」の原料であるそば粉には、「うどん」の原料の小麦とは異なり、延びる成分(グルテン)が入っていない。現在、我々が口にする「そば」の多くは、山芋やタマゴをつなぎとして混ぜて伸びやすくしているため“切れにくく”なっているだけなのだ。

また、2つの縁起をどちらも満たそうとすると、やはり年越しには「うどん」でなく「そば」なのかもしれないと思わせる“時間のいたずら”もある。

実は「そば」につなぎを入れる製法は、江戸時代前期に広まったもの。「そば」は、このとき初めて “細く長く”なった。つまり、年越しの恒例となる少し前にタイミングよく“細く長く”なったのである。なお、江戸では「二八そば」が一般的で、そば粉を8割、小麦粉を2割の割合で混ぜていたという。だから、つなぎを入れないと伸ばせない「そば」は、江戸時代以前は団子状で、そばの実を粉状にしたところに熱湯を加えまとめていたようだ。

その他、本書では次のような「年越しそば」に関する縁起も紹介されている。

・江戸では、白米食の普及の影響から脚気が流行っていた。巷に「そばを食べると脚気になりにくい」という説が流れ、そば食が広まる。そこに「新年を迎えるために、健康に良いそばで体内を清めよう」という意味が込められた(実際、脚気の予防となるビタミンB1が豊富に含まれている)。
・金細工師が、金銀の粉を集める時にそば粉を使ったことから、「金を集めるもの」として「そば」が好まれた。
・「そば」は、栽培の際、風雨にさらされても再び日光を浴びると元気よく立ち直る。ここから、年末に「そば」を食べることに「捲土重来を期する」(失敗したことも巻き返せる)という意味が込められた。

どうやら江戸の人は、少しでも多くの縁起を担いで、新しい年を幸福にしようと祈ったようだ。一食の「そば」に一石二鳥ならぬ一石三鳥、四鳥、五鳥の願いを込めたのである。

また、「人間の幸せは、おいしいものを食べて、健康で長生きして、人々が楽しく過ごせて円満」という著者の言葉が、現代も江戸の昔も変わらない幸せの在り様を示しているようで温かい。

今年の大晦日は、江戸の人と同じく大切に食べたい「年越しそば」。どうしても「うどん」愛を貫くという方でも、願掛けぐらいは良いのでは。いずれにしても、1年最後の食事は願いを込めて、おいしく幸せな気分で味わいたい。
http://ddnavi.com/news/219062/
参照元記事 / ダ・ヴィンチNEWS

『日本人の「食」、その知恵としきたり―なぜ、切れやすい年越しそばが長寿の象徴なのか』(永山久夫/海竜社) / ダ・ヴィンチNEWS

『日本人の「食」、その知恵としきたり―なぜ、切れやすい年越しそばが長寿の象徴なのか』(永山久夫/海竜社) / ダ・ヴィンチNEWS

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