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足元の恵み 感謝忘れず 紙芝居で学ぶ「あえのこと」石川県珠洲市の小学校で公演

「クリの木のはしが一メートルの長さがあるなんて知りませんでした」「扇子に田の神さまが乗って移動することを初めて知りました」

奥能登地方で毎年十二月五日に伝承されている農耕儀礼「あえのこと」。これを題材にした紙芝居が完成し、紙芝居を見た能登半島の最北端にある石川県珠洲市西部小学校の二十人余りの児童が感想を口にした。

紙芝居は、高岡関野神社(富山県高岡市)の神職酒井晶正さん(56)が、儀礼を伝承する珠洲市若山町火宮の田中牛雄さん(92)宅に十年間通って原案を練った。絵は金沢美術工芸大の卒業生で、特別支援学校教諭の北川彩映子さん(31)が仕上げた。珠洲市内の全九小学校で四、五両日に公演された。

紙芝居は、初春から冬まで田んぼを守り、恵みをもたらした神さまを田んぼからお迎えし、家の中でもてなす儀礼がユーモラスに描かれている。目が見えず、豆腐で作ったげたを履き、ヤマネイモのつえをついている田の神さまがあたかもそこにいるように、かみしも姿の主人が案内する様子が温かく表現されている。

「さぞ寒かったでしょう。薪はいくらでもございます。お手なりをおあぶりください」「これは小豆飯でございます。これはハチメのおざしでございます。お汁でございます。豆腐も入っています」。神さまを家の暖炉まで案内し、ごちそうを説明する場面。読み手を務めた声優の木村明里さん(27)=富山大芸術文化学部卒=の優しい声が各小学校で響いた。

西部小では、多くの児童や教員はあえのことを実際に見たことはなかった。それでも、紙芝居を見入るうちに、子どもらは扇子、はし、豆腐にも役割があることを発見していった。目の見えない神さまを敬い、感謝することの大切さが知らず知らずのうちに心に入っていったよう。

「五日はあえのことの日です。大谷地区でも昔は多くの家々で行われていました。今日は田の神さまにごちそうを作り、お供えをしているかもしれません。帰ったら、おうちの人に聞いてください」。浜育代校長は、そう呼び掛けた。簡略化された形で、あえのことが家々に残っている可能性がある。遠方の儀礼や昔話ではない。地元に息づいていることを家族に尋ねてほしい。そんな願いがこめられていた。

田中さん宅では、牛雄さんから引き継いだ長男の茂好さん(62)が主人役になり、あえのことを営んでいた。茂好さんは「やめることは簡単ですけど、できる限りみんなでやっていきたい」と笑ってみせた。牛雄さんは「お米は粗末にせず、ご飯を大切にしていってほしい」と話した。

あえのことは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産。ささやかな家々の儀礼ながら、日本人が大切にしてきた心を今日に伝えている。私たちが学ぶべきものが足元にある。

http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/bunka/list/201412/CK2014121302000184.html
参照元記事 / 中日新聞

紙芝居を聞き、意見を発表した後に、記念撮影する児童ら=石川県珠洲市西部小で / 中日新聞

紙芝居を聞き、意見を発表した後に、記念撮影する児童ら=石川県珠洲市西部小で / 中日新聞

田中さん宅で、執り行われた「あえのこと」。茂好さんが手を合わせた=石川県珠洲市若山町火宮で / 中日新聞

田中さん宅で、執り行われた「あえのこと」。茂好さんが手を合わせた=石川県珠洲市若山町火宮で / 中日新聞

 

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