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北斎肉筆の隅田川 幻の傑作、墨田区取得へ

江戸時代の絵師、葛飾北斎の作品を集め二〇一六年度に開館する「すみだ北斎美術館」(東京都墨田区)は四日、コレクションの目玉として、百年以上所在が分からなくなっていた肉筆画「隅田川両岸景色図巻(りょうがんけしきずかん)」を一億四千九百四万円で取得すると発表した。

図巻は、縦二八・五センチ、横六三三・五センチ。北斎の肉筆画では最大級とされる江戸情緒たっぷりの作品だ。

隅田川の台東区側から墨田区側を望む構図で、柳橋から両国橋、吾妻橋などのほか、途中で描き手の視点を変え、日本堤や吉原の遊郭の屋根も描いている。

図巻には遊郭の座敷で、北斎とみられる男性が、うりざね顔の遊女四人と戯れる姿もある。区の担当者は「北斎かどうかは今後の研究が必要だが、晩年ではない四十六歳の自画像は珍しい」としている。

描かれたのは、一八〇五(文化二)年で、北斎が四十六歳の時。「落語中興の祖」といわれる戯作(げさく)者で今の墨田区内の緑(みどり)に住んでいた烏亭焉馬(うていえんば)に頼まれ、その自宅で描いたことが分かっている。

作品の存在については、明治期に酒田(現山形県酒田市)の豪商出身の政治家が所蔵していたことが分かっていた。いつ海外へ流出したかは定かではないが、一八九六(明治二十九)年に西洋で初めての北斎研究書とされる、エドモン・ド・ゴンクール著「北斎」で、画商の林忠正のコレクションとして紹介されている。

林の帰国に伴い、一九〇二(同三十五)年にフランスの国立競売場「ドゥロウ」で売却され、以後は行方不明になった。一部の研究者が「壮年時代の北斎の傑作」として注目していた。

区が購入に動いたのは、二〇〇八年に競売会社「クリスティーズ」に出品されて日本人画商が落札したことから。担当者は「制作年代の明らかな風景画であるうえ、隅田川両岸の風景を詳細に描いた唯一の作品として貴重だ。陰影を用いた独特な描写は、他の北斎作品には見られなかったもので、研究上、極めて注目される」としている。

「冨嶽三十六景」などで知られる北斎は、現墨田区亀沢付近に生まれ、生涯の大半を区内で過ごしたとされる。美術館は、JR両国駅に近い緑町公園内に区が建設中で、一六年度に開館する。区は、今回の作品購入には区内篤志家から寄せられた寄付金を充てるという。

 
<葛飾北斎(かつしか・ほくさい)>
1760(宝暦10)年~1849(嘉永2)年。江戸後期を代表する浮世絵師。幼少時から浮世絵を学び、90年の生涯で約3万点の作品を残した。代表作に「冨嶽三十六景」など。版画のほか、肉筆画も多い。作品は海外でも広く知られ、ゴッホらに影響を与えたとされる。

 
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015030402000246.html
参照元記事 / 東京新聞

隅田川の台東区側から墨田区側を望む構図の両国橋付近=東京都墨田区提供 / 東京新聞

隅田川の台東区側から墨田区側を望む構図の両国橋付近=東京都墨田区提供 / 東京新聞

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