Exhibition

絵師の息遣い残す“一点物”大阪市立美術館で「肉筆浮世絵」展

江戸の世の庶民に親しまれた浮世絵版画は、絵師と彫師(ほりし)、摺師(すりし)らの共同制作で大量に流通した安価な印刷物。現代のポスターやブロマイドのような存在だった。対して、絹や和紙に描かれた肉筆浮世絵は、絵師の筆勢、息遣いをとどめる貴重な「一点物」。大阪市立美術館(同市天王寺区茶臼山町1)で開催中の特別展「肉筆浮世絵 美の競艶(きょうえん)」には、美人画を中心に、江戸初期から明治の艶(あで)やか肉筆画約130点が並ぶ。

米国シカゴの実業家ロジャー・ウェストン氏による収集品の初の里帰り展。菱川師宣(ひしかわもろのぶ)、宮川長春(ちょうしゅん)、喜多川歌麿(きたがわうたまろ)、葛飾北斎(かつしかほくさい)ら50人以上の絵師の名品がそろう。

驚くべきはコレクションの各作品の保存状態の良好さ。中でも目を見張るのは、江戸後期に活躍し、数多くの門弟を育てた初代歌川(うたがわ)豊国(とよくに)による「時世粧百姿図(じせいそうひゃくしず)」(1816年)だ。

官女や御殿女中、農家の女から、花魁(おいらん)、夜鷹(よたか)まで幅広い階層、職業の女性を描き分ける全24図の作品で、富裕な注文主からの依頼制作品と思われる。描写は精細精緻で、華麗な着物などの色彩も、いま描かれたばかりのような鮮やかだ。

美人画といえば、理想化した女性美を描くものも少なくないが、この豊国作品では、遊女たちの“舞台裏”の赤裸々な姿もとらえ、リアルな風俗図としても興味深い。客が残したらしい大きなカニを手づかみで豪快にむさぼり食う女たち。腕に入れた刺青(いれずみ)の男の名を、線香の火で消そうと歯を食いしばる女の姿も。実際に現地を取材し描いたのか、と想像が膨らむ。

美人画は様式化された表現が多いが、展覧会場を見渡せば、江戸中期ごろのふくよかな健康美や幕末の退廃美など、時代ごとの美女の好みの変化も実感できる。髷(まげ)や着物、帯のデザインなど、ファッションの流行も反映しており、このあたりはまさに当世を描く「浮世」の絵だろう。

浮世絵は江戸のもの、とのイメージも強いが、西川祐信(すけのぶ)、月岡雪鼎(せってい)ら上方を拠点とした実力派の作品も見逃せない。湯上がり女性が題材と思われる、祐信筆「髷を直す美人」(1716~36年ごろ)は、薄い着物から透ける体のラインの表現などが見事。肉筆画らしい細やかな描写にうならされる。

また「扇舞美人図」など近世初期の風俗画には品格が漂う。

同展は21日まで。月曜休館。一般1500円。同館TEL06・6771・4874

http://www.kobe-np.co.jp/news/bunka/201506/0008119245.shtml
参照元記事 / 神戸新聞NEXT

初代歌川豊国「時世粧百姿図」より(1816年)(C)WESTON COLLECTION / 神戸新聞NEXT

初代歌川豊国「時世粧百姿図」より(1816年)(C)WESTON COLLECTION / 神戸新聞NEXT

西川祐信「髷を直す美人」(部分、1716~36年ごろ)(C)WESTON COLLECTION / 神戸新聞NEXT

西川祐信「髷を直す美人」(部分、1716~36年ごろ)(C)WESTON COLLECTION / 神戸新聞NEXT

 

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