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「アートで見る南総里見八犬伝」展 お江戸のメディアミックス / 千葉

江戸時代後期、戯作者の滝沢馬琴が著した長編伝奇小説『南総里見八犬伝』。この物語を題材にした浮世絵などを集めた企画展「アートで見る南総里見八犬伝」が、千葉県富津市の金谷美術館で開かれている。

『八犬伝』は、文化11(1814)年から28年にわたって全106冊が刊行。室町後期の関東を舞台に、不思議な縁で結ばれた8人の若者(八犬士)が安房(現・千葉県南部)の領主、里見家の再興のために集う大スペクタクルで、当時絶大な人気を博した。

金谷美術館の鈴木裕士代表理事は「開館5周年に際し、当地ゆかりであり、刊行開始から200年の節目を迎えた『八犬伝』の企画展をぜひ開きたかった」と経緯を説明する。著者の馬琴の手稿から始まり、現代美術家の宮崎勇次郎さんがこの企画展のために描き下ろした新作絵画「鯰(なまず)と八犬士」まで、『八犬伝』に関連する新旧の作品177点を展示している。

うち100点以上を占めるのが江戸から明治にかけて描かれた浮世絵。『八犬伝』にはいくつもの名場面があるが、今回の展示では各シーンごとに分けて浮世絵を配置しており、同じ場面を描いても、絵師によって表現が全く違うさまがよく伝わってくる。

たとえば、作中でも随一の画題とされる「芳流閣の決闘」。高い物見櫓(やぐら)の屋根の上で八犬士同士が戦うこの場面について、歌川国芳は巨大な屋根をななめ横から見て、その急勾配と多数の瓦が連なる量感、奥行きを描き出す。対して月岡芳年は、屋根の破風を正面から見上げる縦長の構図で高低差を強調する。

『八犬伝』に関する浮世絵の30年来のコレクターとして知られ、展示品の大半を提供した服部仁・同朋大教授(日本近世文学)は「『八犬伝』を題材にした浮世絵を特によく描いたのは三代目歌川豊国と歌川国芳。この2人の違いを見比べてほしい」と話す。

興味深いのは、国芳の弟子、芳艶(よしつや)が幕末期に描いた「とうけ(道化)八犬伝」。神犬八房(やつふさ)が敵将の首を取って帰ってくる作中の場面について、首の代わりにカボチャをくわえさせ、伏姫らが笑い転げるという趣向。こうしたパロディーが成立するほど、『八犬伝』の物語は大衆的に広まっていたことを示す。

小説から歌舞伎や浮世絵など他ジャンルに波及し、現代でも創作の題材になり続ける『八犬伝』。まさに江戸の“メディアミックス”型アートだ。
9月13日まで。水曜休。一般800円。問い合わせは同美術館(電)0439・69・8111。

http://www.sankei.com/life/news/150618/lif1506180004-n1.html
参照元記事 / 産経ニュース

歌川国芳「八犬伝之内芳流閣」服部仁氏蔵(天保11年) / 産経ニュース

歌川国芳「八犬伝之内芳流閣」服部仁氏蔵(天保11年) / 産経ニュース

月岡芳年「芳流閣両雄動」服部仁氏蔵(明治20年) / 産経ニュース

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